日本の芸能界は変わらなければならないときが来ている |10年以上前に言い続けた私の主張は正しかった

話題の社会問題に触れることを、このブログの中では避けてきたが、今回ばかりは黙っていられない、という気持ちになった。

ジャニーズの問題だ。ジャニーズという言葉を言いたくもないほど、私たちに衝撃を与えたし、長く芸能やメディアの世界に携わってきた私から見ると、ようやく日本の芸能界も変わるときがやってきたと実感する。

この問題に、このブログ・投稿の中で触れることはしない。当たり前であるが、人権は守られるべきであり、日本の社会はすでにこの問題が深刻であることを知っている。私が今回伝えたいのは、日本の芸能界やメディアが今後どのように変わってゆかなければならないか、ということ。俳優・タレント・モデル・歌手という、一見華やかに見える世界にいる彼らは、どれほどの努力をしてきているのか、それを知っていれば彼らの人権は正しく守られなければならないということは痛切に感じる。いや、いかなるひとであっても、人として守られるべきだし、それが当たり前の社会を作らなければならない。


私は2009年から芸能事務所を運営してきた。今は色々あって退いてしまったが、その頃から周囲のドラマや映画関係者に「俳優や歌手、タレントの組合を作らないと、彼らはタダの商品になっていずれ潰される」と伝え、「アメリカのSAGのような組合を作りたい」と協力を求めてきた。しかし、誰一人として私のその計画や売れない役者がタダでこきをつかわれる、そういう現実に目を向けようとはしてくれなかった。協力者がいなければ、何もできない。ひとりで正義感の刀を振りかざしたところで、潰される。そういう世界なのだと理解した。数名の人は話は聞いてくれたが、みんな最後には同じことを言った。「君が潰されるから、やめなさい」と。

組合があるから人権が守られる、ということではない。しかし少なくとも、俳優たちが、あるいは養成の子たちがむやみやたらにタダで使われるなんていうことはない。事務所や偉い人達の言いなりにならなければならない、ということも避けられる。と信じている。

エキストラが5時間ほど拘束されて、依頼主から4000円しか払われないことがあった。これでは法で定められた時給以下だ。しかも事務所の利益をそこから計上しなければならない。仕方なく、4000円全額を自社の利益なしにタレントたちに渡したこともあった。

深夜に働いて2000円とか、もう尋常じゃないぐらいの低い金額で「売れない人」はこきを使われる。でも彼らは、ひょっとしたらドラマの監督に「逸材」として発掘されるのではないかという思いで、どんなにギャラが安くても現場に行く。電車賃にもならない。当然交通費は出ない。昨今は深夜になってタクシー代が出ないからという理由で、現場に始発まで残す、ということもざらにある。ちなみに、スタッフ側は、エキストラやスタンドインで現場に入った人達のことを、あくまでも「エキストラ」「スタンドイン」としてしか見ない。「この人逸材かな~」なんて見方は滅多なことがない限りしない。

日本の芸能界がダメなのは、「マネージメント契約」になっているからだ。営業からギャラ交渉・契約・スケジュール管理・トラブル対応など、身の回りの全てを「芸能事務所」が行なってくれるシステムと契約のことを「マネージメント契約」という。この方法だと、俳優たちによって事務所は稼いでいるけれど、俳優と事務所が同等の位置にはいない。事務所が上の立場だ。だから俳優や養成の子たちは、「売れる」ために事務所やマネージャー、プロデューサーの言うことを聞かざるを得ない環境ができてしまう。

ハリウッドの主流は「エージェント契約」である。「仕事を取ってくる業務」の部分だけを芸能事務所が担い、他のマネージメントの部分、つまりトラブルが起こったときのトラブル対処、ギャラの交渉、スケジュールの管理などを自分で行うことになる。ハリウッドの俳優の多くが、売れてくれば自分でマネージャーを雇い、自分でスタイリストを雇い、自分で税理士や法律家を付ける。後述するが、当然、俳優側のギャラの取り分もエージェント契約の方が高くなるし、マネージメント契約だと引かれる分も多くなる。

日本もエージェント契約を、全面的に導入していかなければならない。私は2014年ごろに、それを試みてエージェント方式に切り替えた契約にしようとしたことがある。ところが今度は、所属するタレントたちが「エージェント契約」にすると不安を口にするようになった。

大きな勘違いをしているのは、日本のタレントも同じなのだ。「専属マネージメント」だからと言って、事務所が何でもかんでもやってくれるわけじゃない。自分で自分を鍛え、レベルを上げて、努力してゆかなければならないのは、エージェントだろうが専属マネージメントだろうが同じことなのに、「エージェント契約」と言われた途端に、「突き放された」「見放された」と考えた馬鹿がたくさんいた。

事務所によっては給料制にしているところもあるが、タレントは基本的に個人事業だ。だから税理士も、弁護士も、ヘアメイクも、スタイリストも、必要であれば自分で雇えばいいし、それだけを雇えるようにならなければならない。専属マネージメントで、ヘアメイクやスタイリスト、衣装代をギャラから経費として引かれているのか、それともエージェント方式で、お仕事受けてもらう窓口となってもらうか、単にそのレベルの違いだけ。専属マネージメントは、マネージメント料以外にも、ヘアメイクやスタイリスト、衣装代などの経費も引かれるので、どうしても俳優に渡す金額は安くなる。

エージェント契約で最も優れているのは、俳優やタレントが「主」になれる、ということ。事務所が選んだ仕事を嫌々やるのではなく、自分の価値を自分で考え、ギャラの交渉をして仕事を選べる。つまり自己責任ということ。エージェントがとってきた仕事であっても、本人が嫌なら引き受けなくてもいい。売れていても売れていなくても、仕事の選択の自由はあるし、制作会社側も俳優と直接話ができる。オーディションもオープンコールという書類選考無しの形式が多いから、誰でも参加できる。オーディション情報を掲載するサイトも多く、課金制ではあるけれど山のような数のオーディション情報に出会える。

その代わり、衣装も自分で用意するし、宣材写真も事務所が用意するわけではなく、すべて自分で用意する。香港のモデルは、複数のモデル事務所に登録しているので、1つの案件に複数の事務所から同じ人のプロフィールが送られてくることは頻繁にある。こういう場合は、付き合いの長い事務所の資料をメインにする。モデル本人と連絡が取れる時には、モデルに直接契約か事務所と案件の契約をするなら、どの事務所にオファーしたらいいか相談をすることになる。

エージェント方式になれば、メディアが事務所に忖度をするなんてこともなくなる。本人に直接オファーしたっていいからだ。しかしそうなると、時には俳優が騙されることもある。本人がいい仕事だと思って引き受けたら、最終的にギャラが払われなかった、ということもないわけではない。マネージメント契約では、事務所がそうしたトラブル対応もしてくれるから、俳優側の安心感はある。マネージメント契約のメリットはこういったところにあるだろう。

しかし、組合ができれば、こうしたトラブルも回避できる。もちろん全部ではないにしても一定のルールに従ってコントロールされていくから、制作会社と俳優が対等の立場で1つの作品を作り上げていくことができるし、だからこそ1つのチームが出来上がっていく。


ハリウッドの映画組合をSAG-AFTRAという。長きストライキによって、世界のニュースにもなっているから、初めて知った人も少なくないだろう。

彼らは今、2次使用料の問題で闘っているが、日本はまともに2次使用料を払っているのはNHKだけだろう。

2次使用料、買取の問題、子役の労働時間が本当に守られているのかどうか。。。。枕営業はいまだにあると聞くし、今回のジャニーズの問題は、最もあってはならない人権問題だ。はっきり言えば、日本の芸能界は長きにわたり、様々な人権問題を無視してきた。

私は芸能の仕事を離れてから、海外ロケコーディネーターになった。海外は当たり前のように、一定の時間を越えたら残業代をとるし、「食事に付き合ってほしい」と言われて案内したら、それも仕事だから時間外労働の金額をいただく。12時間以上働いてはいけない法律がある場合は、スタッフを途中で取り換えるなどの工夫をするので、どうしても日本よりお金がかかる。しかし国が違うのだから、従ってもらうしかない。ところが日本のスタッフは、「日本人がコーディネーターなんだから日本に従ってほしい」という訳の分からないルールを勝手に作り、減額させようとする。ありえない!と何度も怒りを感じた。人権も何もあったもんじゃない。

「もうそろそろ限界だ。俳優の組合やエージェントの問題だけでなく、この日本の芸能界やメディアの世界が、大きく変わらなければ、この仕事を続ける意味がない」と思い始めたころ、コロナが蔓延した。

結果的に私は海外ロケコーディネーターの仕事をやめるに至ったが、日本の芸能界や制作会社、メディアの世界は、異常だ。普通ではない。華やかな世界の裏は、ずたずたで、ボロボロで、張りぼてで、嘘と欺瞞に包まれた世界なのだ。

音楽や演劇、映画やドラマは、人を元気にさせるし、社会に問題提起をすることもできる。人間の歴史の中で音楽は宗教儀式とも結びついているし、演劇は日本でいえば大衆演劇から始まって、歌舞伎が生まれ、役者絵と言われる名画が生まれていく。だから芸能という世界は、人間にとって絶対的に必要なものだと私は思っている。だけれども、その世界がこれだけの嘘と欺瞞で作られ、人権が無視されるようなものであってはいけない。日本の芸能界は、イチからやり直さなければいけないのだと思う。

誰もが安心して自分の才能を発揮できる、そして才能を開花させることができるように努力できる環境、忖度のない環境、事務所というブランドに依存せず、「個」が輝ける世界に変ってほしいと思う。そして何より、「タレント」を商品ではなく、ひとりの人として、その人権が適切に守られる業界に生まれ変わってほしい。

できうるならば、私が生きている残りの人生で、その変化を見届けることができたら、、、、と思う。

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この記事を書いた人

株式会社KIZUNA
日本におけるキャスティングとロケコーディネート、マカオ・香港のロケコーディネート・キャスティング・スタッフィング、日本人向けの旅行・視察アテンド業務・プライベートガイドを行っています

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